【特報】戦後60年 日本短編映画のたどった道 ショートフィルムの60年


9月17日(土)〜10月21日(金) ※毎週火曜休映
短編映画館トリウッド(下北沢駅南口より徒歩5分)
http://homepage1.nifty.com/tollywood/
入場料:1プログラム 一般900円/シニア・学生700円

PART-A
帝国の社会と現実−<文化映画の時代>
6プログラム/13作品


A-1<植民地「満州」へのまなざし>(計53分)

『開拓突撃隊−鉄道自警村移民記録−』

1937/33分/白黒/製作:満鉄映画製作所/編集:芥川光蔵
日本の満州侵略には、世界恐慌の影響で深刻な窮乏に陥った農村
の<過剰人口>問題を移民によって<解決>するという目的もあ
った。プロパガンダの目的で製作された映画だが、当時の日本人
が(特に農村で)植民地「満州」をどのような眼で見るよう促さ
れていたかを知る、貴重な資料である。

『娘々廟会(にゃんにゃんめゃおほい)』

1939/20分/白黒/製作:満鉄映画製作所/
演出:芥川光蔵/撮影:藤井静/語り:中村伸郎
満州(中国東北部)大石橋の娘々廟に詣でる農民の習俗、春の祭りの
賑わいを描いた作品。アーノルト・ファンク (『新しき土』'36/
日独合作映画の監督) から直に譲り受けたという、芥川光蔵のズー
ムレンズ使用は、当時画期的な技術だった。しかし、芥川のまなざ
しは、満州農民の生活の内側にまで届いていたのだろうか?
9/17(土)13:45 9/21(水)15:00 9/24(土)15:00 9/25(日)13:45
9/26(月)20:00 9/29(木)16:30 10/8(土)15:00 10/9(日)13:45
10/10(祝)20:00 10/13(木)16:30


A-2<中国大陸の戦火>

支那事変後方記録 上海』

1938年/77分/白黒/製作:東宝文化映画部/
プロデューサー:米澤秋吉/演出:亀井文夫
撮影:三木茂/現地録音:藤井慎二
1937年の第2次上海事変の直後に、三木茂が中国で取材したフィ
ルムを亀井文夫が編集。戦意高揚を目的として製作されながら、
戦場の情景の即物的描写(三木)と巧みな編集(亀井)によって、
単なる戦場の記録を超え、戦争の空しさをにじませ、反戦の意図
を秘めた傑作となった。
9/17(土)12:30 9/19(祝)16:30 9/24(土)16:30 9/26(月)15:00
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A-3<日本文化を描く眼>(計77分)

室生寺

1940/13分/白黒/製作:東宝文化映画部/企画:文部省/
プロデューサー:加納竜一/演出:中村敏郎/撮影:玉井正夫
女人高野と呼ばれる室生寺の繊細なたたずまい、仏像の美しさを
モダンなカメラワークによって見事に捉えた秀作。その美の世界
は、巻頭の「皇紀二千六百年…」というナレーションがなければ、
しばし戦争を忘れさせるほど。

法隆寺

1943/37分/白黒/製作:日本映画社/企画:文部省/
プロデューサー:加納竜一/演出:下村健二/撮影:吉野馨治
消失前の金堂の壁画が捉えられているなど、貴重なシーンもあり、
撮影も丹精だが、戦争も末期に近い'43年当時には、皇国史観の下、
渡来文化である仏教文化を紹介するには、聖徳太子の威徳をもっ
て包まなければならなかった。'40年の『室生寺』と対照させる
と、時代の厳しさが一層よく理解できる。

信濃風土記より 小林一茶

1941/27分/白黒/製作:東宝文化映画部/
演出:亀井文夫/撮影:白井茂/録音:酒井栄三/
音楽:大木正夫/語り:徳川夢声
亀井文夫が、俳人一茶の句を読み解きながら厳しい信州の生活風
俗を描く。痛烈な社会批判が込められたこの作品を、文部省は
「文化映画」として認定しなかった。'41年になると、時代の空
気はいよいよ切迫感を強め、単なる「文化映画」の製作は、いよ
いよ困難になって来る。
9/17(土)15:00 9/23(祝)12:30 9/24(土)20:00 9/26(月)16:30
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A-4<暮らし−総力戦へ−1>(計82分)

『雪国』

1939/38分/白黒/製作:芸術映画社/
演出:石本統吉/脚本:村山英治/撮影:橋本龍雄
山形県新庄を中心に、足かけ3年のロケ。豪雪地方の農民が雪と
の闘いに明け暮れる生活を徹底して描くことを目指した。農村の
生活改善運動なども記録した秀作。英国ドキュメンタリー運動の
影響を受けた、ソーシャル・ドキュメントの嚆矢でもある。

『機関車C57』

1941/44分/白黒/製作:芸術映画社/演出:今泉善珠
最新鋭機関車の車両点検から出発までの構成のなかに、機関助士
(所謂釜炊き)の猛烈な訓練生活と驀進する機関車のダイナミズム
を描く。しかし、この作品を優れたドキュメンタリーと観るか、
「国民生活総動員」映画のはしりと観るか、その評価は微妙に分
かれるだろう。
9/17(土)16:30 9/23(祝)13:45 9/24(土)12:30 9/25(日)15:00
9/28(水)20:00 9/30(金)16:30 10/8(土)12:30 10/9(日)15:00
10/12(水)20:00 10/14(金)16:30


A-5<暮らし−総力戦へ−2>(計53分)

『或る保姆の記録』

1942/35分/白黒/製作:芸術映画社/
演出:水木荘也/構成:厚木たか/撮影:橋本龍雄・龍神孝正
英国ドキュメンタリー運動をポール・ローサ著『ドキュメンタリ
ー映画』(初出時はポール・ルータ著『文化映画論』)の翻訳に
よっていち早く紹介した厚木たかが、 戦時下の、 働く母と子ども
たちの生活を、東京大井の労働者街にあった私立保育所を舞台に
見つめたソーシャル・ドキュメント。厚木は内務省の「映画統制
委員会」から呼び出され、シナリオに戦時教育的内容を加える
よう圧力を受けた。制作手法の面でも、戦後、ドキュメンタリー
の制作手法を一新する羽仁進の『教室の子供たち』に先駆ける要
素をもつ画期的作品。

『わたし達はこんなに働いてゐる』

1945/18分/白黒/製作:朝日映画社/
演出:水木荘也/構成:厚木たか/撮影:小西昌三
敗色の濃厚になった'44年秋から翌'45年の春にかけて、海軍衣料
廠の女子挺身隊を取材。「私たちがこんなに働いているのに、なぜ
サイパン島では日本軍が玉砕してしまったのだろう」と肩を寄せ
合って泣いたという、少女たちの凄まじいまでの労働を描く。戦争
末期の狂気とも言える意識の倒錯が、そのままカメラに捉えられ
ている。
9/17(土)20:00 9/21(水)16:30 9/24(土)13:45 9/25(日)16:30
9/28(水)15:00 9/30(金)20:00 10/8(土)13:45 10/9(日)16:30
10/12(水)15:00 10/14(金)20:00


A-6<科学と技術>(計80分)

満州大豆』

1938/22分/白黒/製作:満鉄映画製作所/編集:芥川光蔵
満州で収穫される大豆の生産高は、当時世界の50%のシェアを占
めていた。盛夏に収穫、厳冬期に供出される満州独特の風物に始
まり、この大豆を原料に生産される植物油の製造法、粕を原料と
する人造バター、塗料、ビタミン酵母剤などの生産を描く。植民
地「満州国」の経済の一端が記録された貴重なフィルム。

『SNOW CRYSTALS(雪の結晶)』

1939年/13分/白黒/製作:東宝文化映画部/提供:日本郵船
指導:中谷宇吉郎/演出・撮影:吉野馨治
「雪は天から送られた手紙である」という言葉を遺した“雪の博
士”中谷宇吉郎の指導により、世界で始めて成功した雪の結晶の
人工創製('36)を映画化した科学映画の古典。従来、フィルムの
断片からオリジナル版の姿を想像するしかなかったが、今回は、
中谷家から発見された完全版(学会発表用バージョン)を公開。

『爆風と弾片』

1943/45分/白黒/製作:理研科学映画/
演出:佐々木富美男/構成:岩掘喜久男/
撮影:古泉勝男・竹内光男/音楽:諸井三郎
焼夷弾と爆撃』などと共に製作された<緊急時局映画>とし
て、国民必見映画とされた。映画は、爆弾の実物を見せながら、
250キロ、500キロ、1トンの順で、その爆風の威力、破片の飛散
による建築物の被害、殺傷能力を実物大の実験によって解説して
ゆく。退避壕は、どのような形状が理想的かなど、画面からは
切実な切迫感が伝わって来る。東京は、既に'42年4月18日に航空
母艦から発進した爆撃隊による空襲を受けていたが(ドゥリッ
トル隊の空襲)、本作公開は'44年2月で、6月に米軍はサイパン
に上陸。6月16 日には、中国から飛来したB29爆撃隊が北九州へ
初空襲を行った。
9/18(日)12:30 9/21(水)20:00 9/25(日)12:30/20:00
9/28(水)16:30 9/30(金)15:00 10/9(日)12:30/20:00
10/12(水)16:30 10/14(金)15:00

PART-B
温故知新!!日本のショートフィルム−「特集・戦後60年
6プログラム/12作品


B-1<50年前の母と子供たち>(計68分)

『ひとりの母の記録』

1955/39分/白黒/製作:岩波映画製作所/
プロデューサー:小口禎三/演出:京極高英/脚本:岩佐氏寿/
撮影:加藤和
信州伊那谷の養蚕農家、ヨメであり母であり、家計の維持のため
に早朝から深夜まで働きづめに働かなければならない一農村女性
の姿を中心に描く。息子や娘は、土木工事や工場に働きに出なけ
ればならない。家族離散の厳しい現実と、農村経済の問題を追及
する。

『教室の子供たち』

1954/29分/白黒/製作:岩波映画製作所/企画:文部省/
プロデューサー:小口禎三/演出・脚本:羽仁進/
撮影:小村静夫
羽仁進の名を一躍有名にした戦後ドキュメンタリー映画の傑作。
東京のある小学校2年生の教室にカメラを持ち込み、子どもたち
にカメラの存在を意識させないよう慣らしてから撮影にはいった
という。また、あらかじめ書かれたシナリオに沿ってではなく、
カメラが記録した素材を吟味し、シナリオを組み替えてゆくとい
う制作手法も斬新なものであった。その清新なリアリズムは記録
映画の方法論に一石を投じた。
9/18(日)13:45 9/22(木)15:00 10/1(土)12:30 10/2(日)20:00
10/3(月)15:00 10/5(水)17:30 10/7(金)15:00 10/15(土)12:30
10/16(日)20:00 10/17(月)15:00 10/19(水)17:30 10/21(金)15:00


B-2<産業映画は特撮映画!?経済成長の礎の記録-1>(計67分)

『巨船ネス・サブリン』

1961/42分/カラー/製作:岩波映画製作所/企画:三菱重工業
プロデューサー:小口禎三・坊野貞男/演出:楠木徳男/
脚本:伊勢長之助/撮影:牛山邦一/音楽:芥川也寸志
三菱重工業長崎造船所(当時)で、9万トンタンカーの建造に取材。
原油輸送のための大型タンカー建造ブームがはじまった昭和30年
代の造船と経済成長の始まりを象徴する造船記録の代表作。50万
トン級のタンカーがあたりまえのようになった今日から見れば、
<巨船>とはいえないが、船台の下に潜り込み、その解体作業を
撮るという、文字通り命がけの撮影を行なった進水式のシーンは
圧巻。

『潤滑油』

1960/25分/カラー/製作:東京シネマ/企画:丸善石油
プロデューサー:岡田桑三/演出:竹内信次/脚本:吉見泰/
撮影:小林米作/音楽:池野成
機械技術の基本的なテーマの一つである「摩擦と潤滑」について、
製鉄所の巨大なインゴットを押し潰す圧延ロール、内燃機関の発
展やジェットエンジンにおいて、摩擦とたたかう潤滑油の重要性
をあますところなく描く。ミクロ撮影など、実験シーンの神秘的
なまでの美しさも魅力。
9/18(日)15:00 9/22(木)16:30 10/1(土)13:45 10/2(日)17:30
10/3(月)16:15 10/5(水)20:00 10/7(金)16:15 10/15(土)13:45
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B-3<産業映画は特撮映画!?経済成長の礎の記録-2>

『地底の凱歌』

1959/54分/カラー/製作:日本映画新社/企画:関西電力
プロデューサー:堀場伸世/演出・脚本:西尾善介/
撮影:藤田正美・潮田三代治
黒四発電所建設記録の第二部。長野県大町からの5.5kの大町トン
ネルとアルプスを縦断する黒部トンネルの掘さく工事を描く。
岩と水と人間の格闘のドラマ。熊井啓監督が石原裕次郎主演で劇
映画化した「黒部の太陽」('68)は、本作をもとに制作された。
しかし、本作のドキュメンタリー映画としての迫力は、劇映画を
凌ぐ?
9/18(日)16:30 9/22(木)20:00 10/1(土)15:00 10/2(日)16:15
10/3(月)17:30 10/6(木)15:00 10/7(金)17:30/20:00
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10/21(金)17:30/20:00


B-4<“唄”の映画>(計63分)

『ぬかものがたり』

1949/17分/白黒/製作:日本映画社/プロデューサー:中村正/
演出・撮影:栗林実/脚本:岩佐氏寿/音楽:三木鶏郎
後援:経済安定本部・商工省・農林省・油糧配給公団
経済安定本部がスポンサーとなった「ぬかものがたり」は、農家
に米ぬかの再資源化とその有効活用法を紹介するが、当時、NHK
ラジオ「日曜娯楽版」で絶大な人気を博していた三木鶏郎とその
「冗談音楽」グループが、演出に加わり、一種の音楽映画に仕上
げている。

『刈干切り唄』

1959/42分/白黒/製作:記録映画社/
企画:貯蓄増強中央委員会/演出:上野耕三/撮影:金山富男/
録音:金谷常三郎/音楽:草川啓
天孫降臨の伝説の地、日向・高千穂の山村にたくましく生きる人
々の暮らしを、”ここの山の刈干しゃすんだよ。明日は田んぼで
稲刈ろかよ”と土地の人びとが唄う、「刈干し切り唄」を聴かせ
ながら、情感ゆたかに描く。

『ホーム・マイホーム』

1979/4分/カラー/製作:エコー/演出:岡本忠成
本上映会で唯一のアニメーション映画。熊倉一雄真理ヨシコ
唄に合わせ、ペーパークラフトのキツネとモグラが地上と地中を
進んでゆく。一見、他愛のないショートショート・アニメーショ
ンと見せて・・・最後に作者の痛烈な社会批評の眼が光る!
9/19(祝)12:30 9/23(祝)15:00 10/1(土)16:15 10/2(日)12:30
10/3(月)20:00 10/6(木)16:15 10/15(土)16:15 10/16(日)12:30
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B-5<児童劇映画の世界−学校の講堂で観たんです-1>

『空気のなくなる日』

1949/51分/白黒/製作:日本映画社/
プロデューサー:石本統吉/原作:岩倉政治/
演出:伊東寿恵男/出演:俳優座原ひさ子花沢徳衛ほか)
ハレー彗星の接近で地球から空気が吸い取られるという噂によっ
て翻弄される村人達を描く。児童劇映画の古典。ある映画雑誌で
「幻の日本SF映画」と紹介されたこともあり、当時、学校の校庭
で催された<納涼映画会>や講堂で上映された映画教室で、この
作品を観たこどもたちは多いはずである。原作は、富山の農民作
家、岩倉政治の児童文学。花沢徳衛が欲の張った自転車屋の親父
を演じている。
9/19(祝)13:45 9/23(祝)16:30 10/1(土)17:30 10/2(日)13:45
10/5(水)15:00 10/6(木)20:00 10/15(土)17:30 10/16(日)13:45
10/19(水)15:00 10/20(木)20:00


B-6<児童劇映画の世界−学校の講堂で観たんです-2>

『オモニと少年』

1958/48分/白黒/製作:民芸映画社+教配/企画:岩崎昶/
プロデューサー:松丸青史/演出:森園忠/
脚本:片岡薫・皆川滉/撮影:荒牧正/音楽:山内正
出演は、劇団民藝北林谷栄ほか。炭鉱の町を舞台に、身寄りの
無くなった日本人の少年を朝鮮人のオモニ(お母さん)が、実の
子供のように育て上げるといういうヒューマニズムに満ちた物語。
在日韓国・朝鮮人を主人公とする映画として、『朝鮮の子』('55
/京極高英)に続き、今村昌平の『にあんちゃん』('59)に先駆
ける作品。
9/19(祝)15:00 9/23(祝)20:00 10/1(土)20:00 10/2(日)15:00
10/5(水)16:15 10/6(木)17:30 10/15(土)20:00 10/16(日)15:00
10/19(水)16:15 10/20(木)17:30

企画:社団法人 映像文化製作者連盟+トリウッド
協力:紀伊國屋書店
http://www.eibunren.or.jp/